自由が丘駅前にある「不二屋書店」(目黒区自由が丘2、TEL 03-3718-5311)が2月20日で閉店する。
自由が丘駅北口(正面口)の女神広場前に立つ「不二屋書店」外観
同店の創業は1923(大正12)年。現店主・門坂直美さんの祖父・吟一郎さんが、自由が丘の隣にある世田谷区奥沢で商いを始めたのが始まり。門坂さんによれば、吟一郎さんは商人の家に生まれたが、本当は作家になりたかったという。
奥沢での商売が軌道に乗ってきた頃、「自由が丘の駅前に店を出してみないか」という誘いが舞い込んだ。当時の自由が丘は、1927(昭和2)年に東京横浜電鉄東横線「九品仏駅」が開設されたが、1929(昭和4)年の目黒蒲田電鉄二子玉川線(現・大井町線)の開業で現・九品仏駅が開設されることになったため、「自由ヶ丘駅」(旧表記)と改称することになった。そのタイミングで鉄道関係者から出店の誘いを受けた吟一郎さんは同年、自由が丘に店舗を移転した。
当時は「駅改札口の真ん前」に立つ木造造りの店だったそうだが、1945(昭和20)年の東京大空襲で消失。戦後、現在の場所に店舗を再建し、やがて門坂さんの母で女学校の教員だったという郁さんが店を継いだ。
書店を営む家庭に生まれ、小さい頃は「好きなだけ本を読んでいいよ」と言われて本に親しんだという門坂さん。しかし、「書店だけは継ぎたくない」と学校卒業後は自立を目指し、航空会社の国際線客室乗務員として勤務。家業とは無縁の生活を送っていたが、年老いた母が商売を続けることが難しくなってきたのを目の当たりにし、40歳で店を継ぐことを決心した。
自分の代になり、「駅前の書店」として住民や来街者向けに幅広い品ぞろえを心がけてきた。中でも文芸書や新書、文庫本を豊富に取り扱い、「最初に仕入れを担当した」という思い入れのある児童書にもこだわってきた。また、文芸・学術系の岩波書店やみすず書房の在庫も多いことから、コアなファンにも愛されてきた。
その同店の店頭に1月8日、「閉店のお知らせ」が貼り出された。「これまで102年にわたりお客様方にかわいがっていただいたこと、只々(ただただ)感謝申し上げます。そして頼りにしてくださっているお客様方を心ならずも裏切ってしまい、ご不便をおかけすることを心よりお詫び申し上げます」(原文のまま)とつづられていた。
店を継いで約30年、親子3代にわたって102年間営んできた。「ここ数年、全国で書店の閉店が相次ぎ、『街の書店』の経営に明るい要素がないと感じる。おいやめいも経営に携わっているが、私の代での閉店を数年前から覚悟していた」と悔しさをにじませる。同店のある地区の再開発事業が延期になったことも、閉店を早める決断に至った理由の一つだという。
「街の書店経営が難しいことは皆さまもご存じなので、『ここまでよく頑張ったね』『お疲れさま』の声を頂いている」と言い、「書店がなくなってしまった街も多いが、自由が丘は古書店も含めると数軒残っている。だから安心して託したい」とほほ笑む。
営業時間は10時30分~21時30分(祝日は21時まで)。