自由が丘のギャラリー「DIGINNER(ディギナー) GALLERY WORKSHOP」(目黒区自由が丘1、TEL 03-6421-1517)で現在、作家・黒沼真由美さんの個展「海潮音」が開かれている。
白木綿のレース糸で編んだ作品「久羅下那洲(くらげなす)」から顔をのぞかせる黒沼真由美さん
千葉県生まれの黒沼さんは東京芸術大学大学院修士過程美術研究科油画技法材料研究室修了後、しばらく作家活動から遠ざかっていたが、15年前、寄生虫専門の博物館「目黒寄生虫館」で目にしたサナダムシ(日本海裂頭条虫)の標本の美しさに感動。その体の構造を「レース編み」で再現することを思いつき、独学で作品を作り始めたという。
グループ展「Hierher-Dorthin -こちらへ、あちらへ-」(2011)で、動物学者、寄生虫学者の飯島魁(1861~1921)が研究したサナダムシや海綿動物・六放海綿をテーマにした作品「内なる海~飯島魁博士に捧ぐ~」を発表。標本写真を基に、生物の体の構造を「解剖学的」にレース編みで再現したもので、黒沼さんは同作品をきっかけに、かぎ針編みと棒針編みを組み合わせた独自のレース編みの技法を作り出した。
今回展示するのは、六放海綿の一つ・カイロウドウケツやクラゲ、オニオコゼなど海の生物をモチーフにしたレース編みによる立体・平面作品約30点。会場は「海の中」の設定で、同ギャラリーの吹き抜け構造を生かした展示も見どころとなっている。
まず目をひくのが、吹き抜けの天井からつるされた大型立体作品「天蓋(タコクラゲ)」。極細のモヘア毛糸を使って半透明のクラゲの体を表現した作品で、傘の部分に風が当たるとまるで潮の流れに乗っているかのようにゆっくりと回る姿も見られる。
1階は海の「水面下」の設定で、カイロウドウケツとクラゲの作品を展示。長い触手が特徴のリュウセイクラゲとアマクサクラゲを白木綿のレース糸で編んだ作品「久羅下那洲(くらげなす)」は、アクリルフレームで両面から挟んで見せるユニークな展示方法で、クラゲの体の構造を表裏から見ることができる。
2階は「水面付近」で見られる生物をモチーフにした「オニオコゼ」「ヘイケガニ」「カツオノエボシ」などの作品を展示。その中に「鏡餅」「神光照海(セグロウミヘビ)」と名付けた立体作品が並んでおり、黒沼さんによれば、鏡餅の原型はヘビがとぐろを巻いた姿だとの説があることから、日本の伝統や習俗に見られる「日本人の心の中にある海」を形にした作品だという。
「海の中を回遊する感じで作品を楽しんでもらえたら」と話す黒沼さん「お薦め」の展示は、1階「久羅下那洲(くらげなす)」と2階「天蓋(アンドンクラゲ)」。前者は「顔ハメ看板のように(クラゲの傘下に)顔を出して見ると楽しいかも」。後者は、ギャラリーの上窓から青白い光が作品に差し込み、「本当に海の中にいるような感覚が味わえる。下から作品をのぞいてみてほしい」とも。
開催時間は12時~20時。月曜休廊。5月29日まで。