株式会社日立製作所(以下、日立)および株式会社日立プラントサービス(以下、日立プラントサービス)は、徳島大学の鬼塚正義准教授の研究グループとの共同研究(以下、本研究)成果が、公益社団法人日本動物細胞工学会の「日本動物細胞工学会技術賞」を受賞したことをお知らせします。
本研究成果は、AIを活用した培養条件最適化技術と細胞挙動に関するシミュレーション技術により、バイオ医薬品の培養プロセス開発を効率化する技術(以下、本技術)であり、開発期間の短縮、および品質を維持しながら高い生産性を実現する先進的なアプローチとして高く評価されました。
本技術は、実験とシミュレーションを融合することで、培養プロセス開発の効率化や培養条件検討の高度化を実現するものであり、バイオ医薬品開発における開発期間短縮と開発コスト低減に貢献します。また、本技術は、日立がバイオ医薬品の研究開発から製造までの高度化をめざして推進する「HMAX for Biopharma」を構成する技術の一つであり、日立の戦略SIBビジネスユニットの支援を得つつ、日立と日立プラントサービスが推進する「Lab to Fab」の実現に向けた重要な基盤技術として位置付けられます。
日本動物細胞工学会技術賞について
日本動物細胞工学会技術賞は、日本動物細胞工学会が動物細胞工学分野における優れた技術開発や産業応用成果を表彰する賞です。学術的価値に加え、産業界への波及効果や実用性、新規性などに優れた研究成果が表彰対象となります。
受賞技術について
抗体医薬品をはじめとするバイオ医薬品の開発では、培養条件の最適化や生産性・品質の向上が重要である一方、多数の培養実験が必要となるため、開発期間の長期化や開発コストの増加が課題となっています。本研究では、Sequential Model-Based Optimization(SMBO)*1を活用し、少数の実験データから逐次的に学習モデルを更新しながら、次に実施すべき最適な実験条件をAIが提案する培養条件最適化技術を開発しました。これにより、従来の試行錯誤型の実験に比べて少ない実験回数で効率的に最適条件を探索することが可能となり、培養プロセス開発期間の短縮と開発コストの低減に貢献します。
さらに、生産性のみを対象とする単一目的最適化に加え、生産性と品質を同時に考慮する多目的最適化を実現しました。抗体品質を示す糖鎖プロファイル*2を品質指標として利用し、生産性と品質のトレードオフ関係を定量的に評価することで、品質を維持しながら最大限の生産性を実現する培養条件の探索を可能にしました。これにより、高品質なバイオ医薬品の効率的な開発を支援します。
また、灌流培養*3で取得した培養データを活用し、細胞増殖などの機構モデルとAIを組み合わせたハイブリッドシミュレーションモデルを構築しました。本モデルにより、流加培養*4におけるグルコース濃度、乳酸濃度、アンモニア濃度および生細胞密度の経時変化を高精度に予測できることを確認しました。さらに、本シミュレーションを活用して生産性向上が期待される培養条件を見出し、その条件で培養実験を実施した結果、生産性向上効果と予測結果が良好に一致することを確認しました。
*1 AI(人工知能)が過去の実験結果を学習し、「次に試すべき最適な条件」を予測する技術です。これにより、従来よりも格段に少ない回数で効率的に最適解を見つけ出し、開発期間の短縮やコスト削減を実現します。
*2バイオ医薬品の品質を左右する、タンパク質に結合した「糖の鎖」の構造パターンのことです。この糖鎖のパターンが薬の有効性や安全性に直接影響するため、医薬品の品質や均一性を評価する上で重要な指標となります。
*3細胞に新鮮な栄養(培地)を常に供給し、老廃物を含んだ培養液を排出しながら細胞を育てる手法です。細胞にとって最適な環境を維持し続けることで、高密度かつ長期間にわたり、安定して細胞を増殖・維持させることができます。
*4細胞の増殖や目的に合わせて、必要な栄養分を段階的に追加していく培養手法です。古い液の排出は行わない点が特徴で、多くのバイオ医薬品の商業製造で広く採用されている実績のある一般的な方法です。
受賞理由
日本動物細胞工学会は、本研究について、少数の実験データを用いながら逐次的にモデルを更新し、効率的に最適培養条件を探索するAI駆動型最適化技術を提案した点を高く評価しました。また、生産性のみを対象とする単一目的最適化に加え、生産性と品質を同時に考慮した多目的最適化を実現し、品質と生産性のトレードオフを可視化するパレートフロント*5を同定できることを示した点にも技術的先進性が認められました。
さらに、灌流培養データを活用して機構モデルとデータ駆動型モデルを融合したハイブリッドシミュレーションを構築するとともに、流加培養においてシミュレーション結果と実測値が良好に一致することを実証した点についても高く評価されました。これらの成果は、バイオ医薬品開発において重要な課題である「スピード・品質・コスト」の改善に貢献する先進的なアプローチであり、今後の産業応用が期待される先駆的な成果として高く評価されました。
*5「品質」と「生産性」のように、一方を良くすると他方が悪くなる関係(トレードオフ)において、最もバランスが良い「最適な選択肢の候補」をグラフにしたものです。これをもとに、目的に合わせたベストな製造条件を決定します。
今後の展開
日立および日立プラントサービスは、今年度も新規の計測機器を提供する株式会社日立ハイテクと共に徳島大学の鬼塚正義准教授の研究グループとの共同研究を継続中です。「HMAX for Biopharma」の構想のもと、本研究成果を培養プロセス開発の効率化に活用するとともに、他のデジタル技術やエンジニアリング技術と連携することで、スケールアップや技術移管を含むバイオ医薬品開発プロセス全体の高度化に取り組んでいきます。
今後は、AI技術とシミュレーション技術を融合した培養プロセス開発支援技術のさらなる高度化を進め、抗体医薬品に加え、再生医療等製品、細胞・遺伝子治療、核酸医薬、産業向けバイオものづくりへの適用を拡大することで、バイオ産業の研究開発・製造の効率化と高品質化に貢献していきます。
日立のコネクティブインダストリーズセクター インダストリアルソリューションビジネスユニットでは、プロダクトの豊富なインストールベース(デジタライズドアセット)のデータにドメインナレッジと先進AIを組み合わせた次世代ソリューション群「HMAX Industry」に注力しています。フィジカルAIのリーディングカンパニーとして、これらをコアとする「インダストリアルソリューション」の提供を通じて、お客さまのライフタイムバリューを最大化し、グローバルに産業を変革することで、豊かな社会の実現をめざします。
関連サイト
第52回動物細胞工学シンポジウム │ 日本動物細胞工学会
日立バイオ医薬ソリューション-HMAX for Biopharma-
日立プラントサービスのライフサイエンス関連ソリューション
日立製作所について
日立は、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業(SIB)を通じて、社会インフラをデジタルで革新し続けるグローバルリーダーをめざし、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献します。デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの4セクターに加え、新たな成長事業を創出する戦略SIBビジネスユニットの事業体制でグローバルに事業を展開し、Lumadaをコアとしてデータから価値を創出することで、お客さまと社会の課題を解決します。2025年度(2026年3月期)売上収益は10兆5,867億円、2026年3月末時点で連結子会社は606社、全世界で約29万人の従業員を擁しています。詳しくは、www.hitachi.com/ja-jp/をご覧ください。
日立プラントサービスについて
日立プラントサービスは、空気、水、エネルギーなど幅広い分野でお客さまのさまざまなニーズにお応えし、快適な社会の実現をめざす総合エンジニアリング企業です。各種プラント・工場設備のエンジニアリングからメンテナンスサービス、リニューアルまでを提供し、また、現場のプロダクト・設備(デジタライズドアセット)のデータに、ドメインナレッジ、先進AIを組み合わせたLumada 3.0を体現するデジタルサービスにより、お客さまのビジネスの成長と、社会課題の解決に貢献します。詳しくは、日立プラントサービスのウェブサイト(https://www.hitachi-hps.co.jp)をご覧ください。
お問い合わせ先
株式会社日立製作所
水環境ソリューションに関するお問い合わせ:水環境ソリューション:日立
株式会社日立プラントサービス
エンジニアリング事業部 医薬・バイオ技術本部 イノベーション事業推進部
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